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【赤髪の白雪姫】きみの瞳に恋をする

第4章 毒薬の功名※


半ば呆れたともとれるような表情のオリーブ色の瞳をもつ彼はため息をついた。

店内で伸びていた強盗の奴らは縛り上げて、倉庫にぶち込んでおいたから、明日にでも近くの大きな街にいる城の兵士に連行してもらえばいいという。

私は、彼の問いには答えずに同じ質問を返した。

『あなた…、こそ、なに…も…の?』

意識こそ失ってはいないが、右肩の二か所から入り込んでいく毒が、身体に浸み込んできていた。かなり痺れが広がってきていて、自分でも驚くほどたどたどしい口ぶりだ。

すると、彼は何度目かわからないため息をつき、毒が回るからと口を閉じるよう促された。

「とりあえず、この針は抜いたほうがいいな。」

彼は自分の腕に白い晒をくるくるとまき、徐に私の口に押し付けた。そして、すでに力の入りきらなくなった血まみれの私の左手をそっと避け、針をぐっと握った。

「舌噛まないように、しっかり食いしばれよ。」

大丈夫。と急に優しい声になって、オリーブの目が柔らかく細められた、そう思ったとき、一気に針が引き抜かれた。

『っぅぐぁ…っぁぁぁあああぁっ!』

痺れた身体でもはっきりとわかるほどの痛みが、全身を駆け抜け、身体が弓なりに浮いた。
私はそのまま意識を飛ばした。




強盗を一通り縛り上げて、トーマと名乗るその少女を置いてきた小部屋に戻ると、そこには針がついたままの空の注射器が落ちていた。どうやら、ヘビ毒に対して、自分で処置を施したらしい。とはいえ、先ほどよりもぐったりとしていることは一目瞭然だった。

(痛々しい。)

自分の力だけでは抜けなかったのだろう。
毒針に左手をかけたままの姿だった。

わざわざこの少女を助ける義理は特に思い付きはしなかったが、なんとなくこうなってしまったことに些かの責任と罪悪感を感じていたし、この子をほっといて帰るようなことをきっと主であるゼン王子はしないだろう。

(乗りかかった船だ。できる限りのことはするか。)

そう腹をくくり、晒を巻きつけた腕を彼女の口に宛がい、毒針を引き抜いた。喉から絞り出すような嗚咽のような声にならない声が漏れたあと、まるで嬌声かのような悲鳴が上がった。女の声だった。

(ほんとに遠慮なく噛んだな、こいつ。)

胸のあたりをもやもやとしていた罪悪感を消すには丁度良い痛みがじんわりと拡がった。
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