第3章 強盗とウェイター
店に入ると厨房らしきところから白い割烹着を身に着けた恰幅のよい女将さんが出てきた。
「いらっしゃいませー」
そこにはテーブルがいくつか並べられていて、30人くらいは入れそうなくらいの広さがあった。
(客は先ほどの男たちと俺だけ、か。)
「お兄さん、一名様ね!どうぞ好きなところに座って!」
女将さんに促されるままに部屋の隅の席に腰をおろした。
溌剌とした明るい声。
食事をとる前から元気になりそうなくらいだ。
その女将さんと入れ違いに、少年といったほうがいいかもしれないほどのウェイターの青年が注文をとりに来た。少し厚手のハイネックのカットソーとパンツ姿のシンプルな恰好に、ネイビーのエプロンと三角巾を身に着けていた。
『いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?』
女将さんとは正反対の小さな声だった。三角巾を目深に被っていて顔がよく見えない。
いぶかしげに顔を覗けば、バイオレットの綺麗な瞳とぱちりと目が合ってしまった。
「あー。。ラザニアの食事セットで。一番辛いのにしてもらえる?」
髪の色は薄いブロンドヘアーだろうか。よくみれば整った顔立ちをしていて、こんな辺鄙なところでウェイターをしているにはもったいないほどの美男子だ。
『ラザニアの食事セットの最上級辛、おひとつですね。』
近くで見ると、袖から伸びる手首や指が白くて華奢で。
なによりよく知っているどこかの誰かに似ている…気がした。
誰かが全然思いつかないのだが。
『えぇと、ご注文は以上でよろしいでしょうか?』
「あぁ、ごめん。大丈夫。以上で。」
うっかりじっと見つめてしまって、彼は怪訝な表情を浮かべつつも、注文を確認して厨房へと戻った。
腰に装飾のついた短刀を身に着けていた。
「トーマ君!これ運んでもらえる?二人組のお客さんね。」
『はい。』
先ほどの柄の悪そうな二人組も気になるが、腰に短刀を携えたウェイターの青年も気がかりだ。
(トーマか―全然思い当たらない―。ま、少し様子をみるとしますかね。)