第8章 元日生まれのあなたへ/流川楓
好きな人と一緒に居られるのは、幸せなこと。
彼が生まれていなかったら、私が生まれていなかったら、会うことすら無かったのだから。
そんな幾つもの奇跡を乗り越えて、出会った2人を【 運命 】だというのだろうか。
「流川」
「……ん?」
視線が重なる。ポッケの中で、繋いでいる手に力を込め、私は言った。
「お誕生日おめでとう! ……出会えて良かった」
今度は、彼が私の手に力を込めた。ゴツゴツした大きな手が微かに震えているように感じる。
「……どあほう」
「え?」
まさかの返答だ。誕生日を祝って、「どあほう」と返されるなんて……。そう思っている内、柔らかな黒髪がおでこに触れた瞬間、唇を奪われた。
「別れ際みたいな事言うな」
「だって、生まれてなかったら出会えなかったんだよ?」
「……それでも聞きたくない。お前は俺と会えただけで満足か?」
" 会えただけで満足 " ……。
会えただけじゃ、満足なんて出来ない。
きっと何回巡り合っても、私は流川楓という人物に恋をするだろう。その時、思うはずだ。
【彼もまた同じ気持ちでいてくれたらいいな】と。
恋をする。誰かを好きになる。相手も好きになってくれたらいいのに。必然的に、このサイクルが生まれる。
そして、お互いがお互いを思い合っていたなら、それは天に昇るほど嬉しく、幸せに満ち満ちている。
この気持ちを知ってしまった今、出会えただけで満足できるはずがない。
私は無言で、彼の問いに首を横に振った。
「俺も満足してない。お前と付き合えなきゃ、会っても意味なんて無い」
「流川……」
【好き】と口にすることは少ないけど、時々それ以上の言葉を彼は私にくれる。
その度、左胸が幸せに弾む。
好きだ!と心音が叫ぶように。