第7章 春色桜恋印/石田三成
「やはり、お前は美しい」
「え?」
三成が発した その声は小さく、娘が顔を上げた時には柔らかく笑う彼の顔が側にあった。
「……一緒に桜を見ないか? それで許してやる」
「そ、そんな……勿体のうございます! どうぞ、打ち首にでも」
「聞こえなかったか? 俺は一緒に桜を見ないかと言ったんだが。ほら、行くぞ」
強引に娘の手を引き、玄関先へと向かう。
「さすが、三成様だ。……おっと、こうしては居られぬ! 皆の者ー、庭に花見の用意だ!! 宴じゃ、宴じゃー!!!!」
一番、この状況を喜んでいるのは部下たちの様だ。
賑やかな声が屋敷に響き渡る。
「まったく、お節介共が」
「すみません。私なんかの身分の者にまで」
「お前は何も気にしなくていい」
宴も終盤。他の者が食事の後片付けやらを始め、席を外していく。そして、桜の前に取り残された二人。
陽は帰り、代わりに月が顔を出している。二人が座る赤絨毯(あかじゅうたん)の周りに置かれた雪洞(ぼんぼり)が優しい光で周囲を照らす。
「綺麗だ」
真っ直ぐ娘を見つめたまま、三成は言った。
その言葉と、この場の雰囲気が相成って、男前の三成を更に引き立たせる。
互いに見つめ合っていたが、恥ずかしさから三成は桜へ指を向けた。
「み、見事な夜桜だな!」
「そ、そうですね!」
「……お前と見れて良かった」
「私もです。ありがとうございます、三成様」
しばらく、二人は幻想的な灯りが照らす桜の下で夜風に吹かれていた。
春色桜恋印【完】