第3章 マテールの亡霊
ユウリは、どんどん道を進んで行く。時々心臓が痛む事はあったが、我慢して進んで行く。
歩きながら手をつく石の壁や通路の空気が、ひんやりしていて、涼しい。
(『…地下住居、かな…』)
マテールは、そもそも人が住める場所ではない劣悪環境の地で、強い日差しから逃れるために、住人たちが地下に都市を築いたと考えてもおかしくはないが、これが本当に街となるとかなり大きく、巨大でどこまでも石の壁が続く景色では、現在位置など簡単に分からなくなり、迷ってもおかしくない。
(『まだ…全てを信用した訳じゃないんだから…』)
無事にここを抜けられたとしても、まだ神田達と合流できてはいないし、彼が完全に敵ではないと分かったわけではない。一抹の不安は拭えないが、とりあえず進むしかないと、唄が聞こえてきたので、唄を辿って着いた先は、屋内ではあるが、砂地の広場のような場所。見回してみると、右奥から見慣れた団服が見えた。
『!! アレンッ』
見知った姿を見つけユウリは急いで駆け寄った。
『…アレン、よかった…!…っ!?』
再開を喜ぼうとしたのもつかの間、近くで包帯を巻かれ、横たわっている人物を見つけ、顔が強ばった。
『…ユウ、トマも…怪我したの…?』
アレン「…はい。アクマがトマの皮をかぶっていて、それで…」
話を聞くと、イノセンスである人形は見失い、トマに化け潜んでいたアクマに油断し、神田トマとは負傷してしまったらしい。
『…そう… アレン、2人を運んでくれてありがとう。」
アレン「! …いえっ、僕は…結局何も出来なかった…」
マテールの人々は、岩と乾燥の劣悪な生活からの絶望から逃れるため、踊り、歌を奏でる快楽人形を造った。今この歌を奏でているのは、マテール最後の人形。