第3章 マテールの亡霊
―朝・神田自室。
『…ん… あ、さぁ…? 神田「…い、くな… リィ…ナ…」 っ!?…』
ユウリは、まだ完全には冴えない目を擦りながら、身体を起こそうとしたが、突然隣で寝ている筈の神田が呟いた言葉に驚き、束の間動きを止めてしまった。
(『…ルイ… 違う…! 今目の前に居るのは【神田 ユウ】…私の大切な弟で、【あの人】は…っ…』)
主人公は、切に願う…神田がこのままずっと大切な弟でいてくれる事を。【私】の事も、【あの人】としての記憶も…思い出さないでいてくれる事を…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
神田「… 朝か… ?…ユウリ…?」
神田が目覚めたのは、もうだいぶ日が昇ったお昼過ぎの事だった。窓の外で激しく降り続く雨音で目覚め、隣で一緒に寝ていた筈のユウリが居ない事を不思議に思い、探し始めた。
『…あら? ユウ、おはよう。』
ガチャッ とドアが開き、ユウリが中に入って来た。
神田「……あぁ。……おい、ユウリ…何だその格好は。」
返事をした神田は、ユウリの姿を見て驚いた。何故なら、ユウリが全身びしょ濡れで、しかも着ている私服が雨に濡れたせいで身体にピタリと貼り付いた姿で現れたからだ。
『ん? …あぁ、これ? んー朝早く目が覚めちゃって、天気が良かったから外で鍛錬してたら雨に降られて戻って来たの。…シャワー室借りるね?』
神田「……おい、ユウリ。」
そう言い残し、シャワー室へ向かい始めたが、神田は主人公の手首を掴み、少し力を入れ自分の方に引っ張った。
『えっ! ちょ、ちょっと、ユウ!? きゃあっ』
突然引っ張られ、バランスを崩した主人公は、神田の胸元に飛び込む形になってしまったのだ。
神田「…おい、ユウリ。お前…それ、キツく巻き過ぎるなと言った筈だぞ? …また俺が巻き直そうか?(妖笑)」
神田の言う【それ】とは、昨日神田が巻き直した筈のサラシのこと。
『…えっ… や、ヤダッ///… じ、自分で出来っ… ちょ、きゃっ』
神田がしようとしてる事を悟り抵抗するが、例え弟でも男である神田に力でかなうはずも無く… 鍛錬をするためにキツく巻き直したサラシは、再び緩く巻き直されたのだった。