第8章 〜奇蹟〜
「はい、浮竹さん。制御のコツ、教えてあげるね。冬獅郎、白哉。お話は…ちょっと離れてしてくれる?」
これ程の殺気が渦巻く中でも、全く調子の狂わない玲は、浮竹にとっては救世主だ。
白哉と冬獅郎はちらりと玲を見遣ってから、瞬歩で遥か遠くへと跳んだ。
「あ、修行まだ終わってないんだから、無茶しないでね!」
そんな玲の叫びに応えたのは、空間を揺るがす程の霊圧と、氷と桜の衝突だった。
「霊圧遮断しなきゃ皆寝れないね」
溜息と共に此方と彼方の境界へ結界を張って。
幾分マシになった霊圧に未だ呆然とする浮竹にふと笑みを見せる。
「大丈夫。あれでも二人共半分ぐらいだよ」
「半分…?あの霊圧でか?」
あれだけ遠くで爆発しても、震える身体を抑えられないのに。
そう、愕然と呟く浮竹に、玲は微苦笑を浮かべた。
「…まぁ彼等は潜在霊力高い方だけど」
さらりと告げる玲に、浮竹は目を見開いた。
軽く見積もっても総隊長の五倍はあった冬獅郎と白哉の霊圧。
あれが本当に全力の半分ならば。
彼等の怒りに触れただけで、瀞霊廷は壊滅する。
卍解などせずとも。
溢れる霊力を全て破壊に回すだけで。
浮竹は甘くみていた。
昨日の鬼事に参加していなかった彼は、玲の力がどれほど常識を逸しているのかも、彼女に力を与えられた白哉と冬獅郎がどれ程危険な状態なのかも、正確に理解出来て居なかったのだ。
今なら、総隊長が少しでも時間があるのなら行ってこいと声高に触れた意味も分かる。
玲と直接戦った総隊長は、分かっていたのだろう。
もう、彼女を力で抑えつける事も、法で縛る事も、出来はしない事を。
もしも彼女を躊躇わせるものがあるとすれば、それは親しいものとの繋がりしか無い事を。
分かった上で、言ったのだ。
取り入ろうとはするな。向こうから、気に入らせよと。そして、出来るならば、力を付けて”戻って来い”と。