第8章 〜奇蹟〜
「…玲に霊力を上げてもらってから、氷輪丸が常時解放型になって…それからだな」
足元の割れた食器やグラスを玲が消滅させているのをちらりと見遣って。
彼女の力を知っているのに、これぐらいで驚かれるとは思わなかったとでもいう様に、きらきらした期待の眼差しから目を逸らす。
自分は出来るようになったが、彼等もそうとは限らない。
現に白哉は…
「常時解放、か」
成る程、そんな手があったか。
とでもいう様に、すっと手を翳した。
解放はしていない。
それでも彼の手掌に沿って、桜の刃が煌めいた。
その先には、京楽を追う更木の姿。
「な、てめ、朽木か?!うおぁ?!」
「成る程。便利だな」
出来たらしい。
気付かなかったのは、彼が感情を表に出すタイプではないからなのだろう。
冬獅郎が気付いたのも、怒りを表に出した時だったから。
「…玲。霊力あげたら全員常時解放になるのか」
「まさか。人によるよ?」
白哉の常時解放にもそう驚きも見せずに、ことりと氷のグラスを置く玲。
その言葉にやちると桃が残念そうに肩を落とした。
余程、冬獅郎と白哉のそれが羨ましかったらしい。
「鬼道系の斬魄刀は常時解放に成り易いのは確かかな」
フォローするように付け足された玲のその言葉に。
「私、頑張るね!」
桃はぱっと顔をあげ。
やちるはしゅんと更にへこんだ。
玲は、下手に確約する訳にも行かず、やちるを抱き上げてぽんぽんと撫でる。
「やちるちゃん、チョコレートって知ってる?」
「何?それ」
「甘いお菓子だよ。はい、あげる」
ふわりと優しい笑みを浮かべて、チョコレートをやちるに渡す彼女に、仇成す者などいるのだろうか。
周囲にそんな事を思わせる程、玲は美しく、誰にでも優しい。
ともすれば、残酷なまでに。
「やったぁ!わぁ、ほんとに甘くて美味しい!」
ぴょんぴょん跳ねるやちるを見て親の心情になるのは古参の隊長達。
七緒と桃も暖かい目で彼女を見ていた。