第8章 〜奇蹟〜
「…美味しいなら美味しいと言えば良いのです」
ぽつりと漏らした卯ノ花の言葉に、更木がぴたりと足を止め。
「あら、気に入ったの?更木さん」
意外そうに首を傾げる玲の麗姿に、振り返った更木が声を荒げる。
「誰が気に入るか!んなけったいなもん食わしてんじゃねぇよ!」
「そう?じゃあ次は和食にするね」
何処と無く残念そうに微笑む玲を見て、鋼だったはずのココロに亀裂が走る。
「…く…食わねぇとは言ってねぇぞ」
「そう?あ、手抜きで良いならまだあるよ?」
ぽんぽんと空いた皿を片付けて、どこからとも無く料理を引っ張り出す玲に。
やはり得体が知れないとは思いつつ、前の様に暴言を吐く気は失せていて。
「…しゃあねぇ」
仕方なさそうに席に座りなおす更木に、やちるが嬉しそうに跳ねた。
「剣ちゃんがでれた!」
「…鬼の躾はああするんだねぇ」
「馬鹿、京楽!」
染み染みと呟く京楽に、浮竹が慌て。
「なんか言ったか、てめぇら、ああ?!」
案の定、更木の耳に届き、テーブルはひっくり返って。
「…元気になったね」
「さっきまで死にそうだったのにな」
自分の食事が入った皿を手に持ち、鬼の形相で剣を振るう更木と、笑いながら逃げる京楽を見遣る。
しれっと冬獅郎が氷で造り直したテーブルの上に皿を置き、氷のグラスで水を飲む。
当たり前の様に繰り広げられるその光景に。
「日番谷隊長、いつの間にそれ程の操作能力を…?」
唖然としている卯ノ花が問うた。
桃もやちるも七緒も浮竹も、斬魄刀解放もしていないのに出来上がる氷の造形に、目を丸くしている。