第8章 〜奇蹟〜
「—っ白哉!?何怒ってるの!」
慌てて飛び込んできた渦中の彼女は、この霊圧の中でも恐怖の色は見えなかった。
琥珀の瞳が訴えるのは唯々困惑。
理由も分からないのになんと言って良いか分からないのだろう。
それでも、玲が必死に落ち着けと訴えかけると、朽木の霊圧は治まって行った。
「何故庇う」
「何故って…冬獅郎は、戦おうとはして無かったでしょう?」
「其方は戦意が無い者に刀を向ける事を嫌うだけか」
「喧嘩に口出しはしないけど…仲間内で争うなら、理由ぐらいは聞きたいな」
あくまで冷静な彼女の言葉に、朽木は斬魄刀の柄から手を離す。
「彼奴が其方を泣かせたからだ」
さらりと言ってのけた彼奴には、羞恥というものが無いのだろうか。
きょとんと目を丸くした玲は、思い出す様に首を傾げ。
「そんな事で怒ってたの?!」
軽く頬を染めて声を荒げた。
「そんな事、では無い。大切な者が泣かされたとあれば怒るのも道理であろう」
「ちょっと白哉黙って!」
さも当然の様に溢れる言葉に、玲は目を泳がせる。
恥ずかしいのだろう、彼女の顔は耳まで赤くなっていて。
「経緯、ちゃんと聞いて」
はぁっと溜息を零した玲は、それだけ言い残して調理場の方へ戻っていった。
「あ、早くしないとご飯無くなるからね!」
思い出した様に緊張感の無い言葉を放って。
「…先に食事か」
「…そう、だな」
当人の乱入で、既に緊迫した空気は霧散していた。
落ち着いた白哉は、大食らいが約二名ほどいる事を思い出したのだろう。
霊力のある魂魄である以上、空腹には勝てない。
歩き出した白哉に続きながら、冬獅郎は溜息を吐いた。