第8章 〜奇蹟〜
もう一つ、出来れば行きたく無い部屋の前で立ち止まって。
少し、躊躇する。
「日番谷か」
中から声が聞こえて、言われてみれば霊圧も何も隠していなかったと思い当たり、扉を開く。
中は見事に和室だった。
他は洋室だったから、恐らくこの部屋だけなのだろう。
「…戻ったか」
「無論だ」
すと細くなる瞳に、僅かに自責の念を覚えて、目を逸らす。
彼は以前、泣かせれば許さないと言った。
自分は以前、泣かせるかと言った。
が、玲は昨日確かに泣いていた。
冬獅郎のせい、だとも。
「飯だって、言ってたぞ」
誤魔化す様に発した言葉は、動揺を悟らせただけだった。
「何をした?」
漆黒の瞳が、静かに怒りを宿した。
気付いたのだろう。
此奴は、感情を読むのが上手い。
「…悪い。泣かせた」
一先ず自分の非は認めてみたものの。
それで相手の気が済むはずも無い。
「何があったのだ」
言及する朽木の霊圧が上がっていく。
まるで際限が無いかの様に。
玲が創った空間をも捻じ曲げんばかりに。
つと、冷や汗が伝うのを感じた。
こんなにも、上がっていた奴の霊力の上限に、全く気付かなかった。
これが、彼奴の言う制御なら。
これを人に与えられる玲は、化け物などでは無い。
最早神だろう。