第8章 〜奇蹟〜
先に修練場所に足を向けた冬獅郎は、疲れ果ててぐったりしている隊長格達にこめかみを押さえた。
玲にはゆっくりやれと言われたはずなのに、勝手に躍起になったのだろう。
動けそうなのは、卯ノ花と狛村ぐらいだった。
「あ〜…日番谷君…どっかで休憩してたのかなぁ?僕達には徹夜で修行させてさぁ〜…」
壁に寄り掛かっていた京楽が、何処と無く恨みがまし気な視線を向けてくる。
そう言えば彼等は、休息場所が他にある事を知らないのだ。
「…各部屋は彼奴が創ってくれてる。誰も徹夜しろとは言ってねぇだろ」
「そんな事、聞いてないよ〜…」
声に力の無い京楽はがくりと項垂れた。
「そうだよ、ひっつー。酷いよ自分だけ〜…」
頬を膨らませて見上げるやちるに、冬獅郎は面倒臭そうに眉を寄せた。
「ここの時間が外と違うと言うのなら、下手に出る訳にも行かなかった為、皆疲れ果ててこの有様です。日番谷隊長。休める場所があるのなら、皆をそこへ案内してはくれませんか?」
唯一、己の体力の限界を計算していたのだろう卯ノ花の助言で、何となくこうなった経緯は理解した。
「…腹は?」
案内するのは良いが、玲が食事を作ると言っていた事を思い出し、周りを見回す。
「「ペコペコ〜」」
「あれだけ力を使えば…まぁ」
「なら、もう少しここに居ろ。玲が飯作ってる」
冬獅郎の言葉で、やちるがぴょんと飛び跳ねる。
「玲ちゃんのご飯!」
若干気怠さが抜けて、立ち上がった京楽。
「なんかちょっと元気出てきたよ」
そこに、地を這う様な声がする。
「……てめぇら…元気じゃねぇか…」
どうやら一番疲れを感じているのは散々疑問を持っていた更木の様だ。
「…俺は浮竹の様子を見てくる。手が空いてるやつはテーブルの上片付けておいてくれ」
そう言い残し、冬獅郎は修練場所を後にした。