第8章 〜奇蹟〜
「死ななかったろ?」
賭けに勝ったかの様ににやりと笑う冬獅郎。
けれど、その身体は倦怠感に耐え切れず、ベッドに横たえられていて。
私は彼の胸を叩いた。
現状出せる精一杯の力で。
「痛ぇよ」
「馬鹿」
「さっきも聞いた」
「馬鹿!何考えてるの?!」
傷付けたくないのに。
殺してしまうかと思った。
恐怖で頭が真っ白になった。
傷付けることしか出来ないなら、消えてしまえばいいと、本気で思った。
なのに。
どうしてこの人はこんなにも飄々と…
「殺してしまうかもしれないのが怖かったんだろ?自分が化け物だとか言ったのも、制御出来ないんじゃねぇかって思ったからじゃないのか」
頷くと、冬獅郎はふっと笑う。
「なら、出来ただろ。じゃなきゃ俺は此処に居ねぇよ」
「だからって…」
どうして、こんな事。
死んでしまうかもしれないのに。
けれど、そんな心の有り様を許さないとでもいうかの様な行動は。
「お前が、俺達と違うのはわかってる」
「なら…」
「だからって、自分を貶めるな。蔑むな。お前はそのままで良いんだよ」
酷く、暖かかった。
泣きたくなる程に。
「…泣くなよ?」
「冬獅郎の、せいだもん」
恐らく初めて本気で流しただろう涙は。
泣き疲れて眠るまで、止まる事を知らなかった。