第8章 〜奇蹟〜
「化け物って、更木さんが言ってたね」
「彼奴の言葉なんて気にするだけ無駄だぞ」
「ううん、その通りだなって思って」
ふと、腕を動かそうとして、上手く力が入らない事に気付いた彼女は、すっと目を閉じた。
「…俺はそうは思わねぇ」
「冬獅郎が優しいから、でしょ」
諦めたような口調に胸が痛んで、彼女の顔の側に手を付いた。
「試してみるか?お前が俺を殺すか否か」
「馬鹿、なの?」
見上げる瞳が恐怖に揺れている。
前回とは違う、人を殺してしまうかもしれない恐怖に。
「まだ動けねぇんだろ」
霊力の同調は余程コントロールが上手く無いと出来はしない。
白哉とて下手では無い。
けれど、半分の霊力を削っても、玲に戻った霊力はほんの僅か。
冬獅郎はそこに付け込んだ。
霊力が殆ど無く、身体も思うように動かせない玲に。
「や、だ。冬獅郎…!」
「本当に嫌なら吸い殺せばいい」
そんな言葉を告げて。
彼女の唇を塞いだ。
霊力を同調させて、玲へ注ぐ。
コントロールし切れずに発露している霊力を気にも止めずに。
拒絶を示していた玲の霊力が、諦めたように応え始める。
すっと首に回された腕と、絡められた舌に驚いている間も無く。
言いようの無い虚脱感が身体を襲って、全身に力を入れた。