第8章 〜奇蹟〜
「じゃあ浮竹さん。ちょっと仮死状態になってもらうね」
浮竹をベッドに寝かせた玲は、霊子で作り出した針を片手に明るく告げた。
「仮死…?」
動揺を見せる浮竹に玲は微笑んで、詳細を告げる。
「うん。貴方の肺は再構築しないと治らない。けれど、人の身体は意識があると一時的にでも消滅させる事に耐えられない。最悪ショック死するから、処置中は意図して身体の機能を全停止させるの」
「そう、か…。ミミハギ様は…」
「貴方の肺に憑いてる霊王の右腕ね。先に剥離させるから、消滅はさせない。再度貴方に憑くかどうかは交渉次第ね」
分かった、と頷いた浮竹は目を閉じた。
玲は彼の首に針を刺して、身体の機能を止める。
「さて、話は聞いてたよね。ミミハギさん」
ぼぅっと浮竹の身体から霊力の塊が浮き出した。
玲はその意思を読み取って、ふわりと笑う。
「うん、ありがとう。じゃ、天照。宜しくね」
浮竹の胸に手を翳して、既に機能していない肺を新しく創造し、定着させる。
人の魂魄に直接力を使うのは、霊力の消耗が思ったより激しかった。
「はぁ…っく…ぎりぎり、ね」
残り霊力が1パーセントを切ったところで、漸く処置が終わって、玲は膝から崩れ落ちる。
それでも何とか、彼の首から霊針を抜き取り、血を吐かせると。
浮竹の胸が規則正しく上下を始め、ほっと息を吐く。
様子を見守っていたミミハギも、浮竹の身体へと戻った。
それを見届けた玲は、霞む意識をどうにか持たせ、
部屋を出た。