第8章 〜奇蹟〜
「わお、見事に洋菓子だねぇ。こっちじゃあんまり食べられないよ」
テーブルに並んだケーキやクッキーを眺め、京楽が感嘆の溜息を零す。
「彼奴…今日降りた時にこんなもんのデータまで集めてやがったのか」
この間気に入ったと言っていた紅茶まで用意されているそこに、冬獅郎が呆れの視線を向ける。
「…見たことの無い茶葉だな」
ティーポットの中を覗き込みながら、呟く白哉。
抹茶や玉露しか飲まない彼は、紅茶は知らない様だった。
ちゃっかりお湯まで用意されている周到さに息を吐き、仕方なく紅茶を淹れ始める冬獅郎。
「おや、日番谷君分かるのかい」
「…紅茶を初めて彼奴に飲ませたのは俺だ」
「へぇ〜、と言うか、君案外似合うもんだね。そういう事してるのも」
黙って紅茶を淹れる冬獅郎に茶々をいれる京楽。
「あ、ななちゃん!ひっつーが女の子みたい!早く早く!」
「抜かりありません」
それに気付き、七緒を急かすやちると、何処からともなくカメラを取り出し写真を撮る七緒。
「てめぇら…それどうするつもりだ」
「女性死神協会に提出するの!私が会長なんだよっ!」
「させるか!」
「わぁい、ななちゃん逃げるよ〜」
ポットを放り出し、カメラを破壊すべくやちると七緒を追う冬獅郎。
その後ろで、さり気なくポットを受け止める卯ノ花。
「日番谷隊長、私が理事である事を忘れておいでの様で」
くすりと笑う卯ノ花の手にはいつの間にか七緒が持っていたはずのカメラが。
「…中々美味いな」
我関せずと紅茶を飲む白哉は、自分も無関係で無い事を知る由もなく。
「貴公らも大変だな…」
騒がしく、鬼事をしているやちると冬獅郎を横目に、狛村は染み染みと首を振った。
「彼奴がであろう?」
不思議そうな視線を寄越す白哉に、狛村は視線だけで卯ノ花を示す。
彼女の手には、カメラ。
「…散れ、千本桜」
「鏡門」
目の前で繰り広げられる不毛な争いに、ふと遠い目をする狛村だった。