第8章 〜奇蹟〜
修練場所に駆け込んだ私は、如何にか回道を発動させて、浮竹を治療している卯ノ花さんを見た。
彼女の額には玉のような汗が浮かんでいて。
「卯ノ花さん。代わるよ」
声を掛けると、限界だったのか、頭を下げて場所を空けてくれた。
「んだよ、四番隊の隊長も大したことねぇなぁ」
はっと鼻で笑う更木に無言で塞を放って。
「うおぉおお?!」
驚愕の雄叫びに背を向けて、浮竹に向き直った。
天照の光で彼を包みながら声を掛ける。
「浮竹さん。意識はある?」
「…っ…あぁ」
彼の目が薄っすら開いた事に安堵して、会話方法を変えた。
—浮竹さん。この病気、治したい?
「…は?」
—思念で伝わるから、声出さなくて良いよ。私は貴方が過去に何をして今生きているかも知ってる。その上で聞いてるの。治したい?
—そうすれば、彼は消えてしまうのか?
—それは、彼次第ね。交渉はしてみるけど。
浮竹は暫く悩むように目を閉じた。
—君は、何を思ってこんな事を?
返事とは違う彼の問いには複雑な想いが入り交じっていた。
思念話を可能にしている今の状態だと、彼の思考は全て頭に伝わって来てしまう。
けれど、全ての答えを求めている訳ではないことぐらい分かっていた。
治せるのだから治す。
強くできるから手を貸す。
目の前のもどかしさについ手が出てしまう。
それが私の性格なのだろう。
けれど、私の心とは別の意思もない訳ではない。
私には成すべき事があって。
彼等に手を貸すことで、それが容易になる事も知った上で、行動しているのだから。
—知りたいのは動機?それとも理屈?
—はは。敵わないね。
別に知られても構わないのだけれど。
彼はそれ以上踏み込もうとはしなかった。
—じゃあ、お願いするよ。僕の病気を治してくれるかい?
—わかった。じゃあ場所変えよっか。その前に…