第8章 〜奇蹟〜
近付いてくる人の気配で目を覚ました私は、それが良く知っている気配であった事に安堵する。
ベッドから起き上がって霊力の戻り具合を確認し、扉に目を向けた。
「玲。入るぞ」
「うん」
声を返すと開かれる扉。
翡翠の瞳は厳しい色を孕んでいた。
「何かあった?」
「浮竹が倒れた。卯ノ花が見てるが、制御が不完全な所為か処置が上手くいかないらしい」
あぁ、と納得して目を落とす。
そもそも、身体の弱い彼には、今回の特訓は相当きつい。
それは分かっていた筈なのに、何の対策もしていなかった、私が悪い。
「ごめん。すぐ行く」
「戻ったのか?」
こんな時ですら、私の心配をする冬獅郎は、時々過保護な保護者のようで。
「まぁ、一割ぐらいは」
ベッドから降りて素直に数値を伝えると、眉間の皺を深くする彼の額に触れる。
くいっと皺を伸ばさせると、その手を掴まれて降ろさせられる。
「大丈夫だよ。白哉と斬り合いにでもならなきゃ今の霊力でも十分動けるから」
「なんで喩えが彼奴なんだ」
「潜在霊圧の高さは貴方達が群を抜いてるから、かな」
くすと笑って、足を速める。
早く行かなきゃ卯ノ花さんが可哀想だから。