第8章 〜奇蹟〜
すぐに少し開けた空間に出て、左右に道が枝分かれしている。
其処を通り過ぎて真っ直ぐ歩くと、直ぐに広大な空間に出た。
何処までも続くかの様に錯覚させる程の広い空間。
天井は青空で、目の前は少しの荒野と奥に森林。
出張った崖からは滝が流れ落ちているのが遠目にちらりと見えた。
唖然としている冬獅郎の手に、氷の結晶の細工を入れた少し華奢な制御装置を渡す。
黙って眉間に皺を寄せる彼に、左腕を指して促した。
「今の外してこっち付けて?」
「…分かった」
言われるままに制御装置を外した冬獅郎の霊圧が跳ね上がる。
しかし、今手渡した専用の物を付け直すと、それはがくりと下がった。
「これは…」
驚いて目を開いている彼は、どうやら近付いてきている気配に気付いていないらしい。
「どぅも〜。お二人さん。こんな所で何してるの?」
「京楽隊長。早かったね」
派手な羽織の隊長の後ろからおずおずと顔を出す副官の姿を見て私は微笑んだ。
「伊勢副隊長。来てくれたんだ」
「いえ、あの。お邪魔しています…。それより瑞稀さん。その呼び方は…やめて頂けませんか」
酷く恐縮した様に身体を小さくする彼女に、首を傾げる。
「どうして?」
「いやぁ…昨日指一本で吹き飛ばされた相手に敬称で呼ばれてもね」
「あら、根に持ってるの?」
「いやぁ?自分に置き換えて考えてみなよ?」
暫く考えた後。
確かに嫌味にしか聞こえないのかもしれないと溜息を吐いた。