第21章 裁きの門
――愛しているが故の、拒絶。
「恋をしたんだと云ったら、だって君はおかしくなってしまうだろう?」
「――その傷で良くやるもんだ。」
聞こえて来た声に、慎也は唇を噛み締める。
螺旋階段を下りて来た男の顔を、慎也は殺意を持った目で睨む。
「お前は狡噛慎也だ。」
「――お前は槙島聖護だ。」
ドミネーターを構えるが、犯罪係数は0から動かない。
「正義は議論の種になるが、力は非常にハッキリしている。その為、人は正義に力を与える事が出来なくなった。」
「悪いが俺は誰かがパスカルを引用したら、用心すべきだとかなり前に学んでいる。」
「ははは。そう来ると思ってたよ。オルテガだな。もしも君がパスカルを引用したらやっぱり僕も同じ言葉を返しただろう。――あぁ。それとも。それを教えたのはもしかして泉、かな?」
その言葉に、慎也の怒りが増幅する。
「――泉は、俺の女はどこだ?!」
「少し語弊があるな。あの子は元々僕のものだよ。狡噛慎也。」
「ふざけるな!さっさとアイツを返せ!」
「――あの子の本好きは僕の影響でね。君がパスカルを知ったのだって元を正せば僕の影響、と言う事になるかも知れないな。」
どこか楽しそうに言う槙島に、慎也は幾分冷静さを取り戻す。
「貴様と意見が合ったところで嬉しくはないが。」
「語り明かすのも楽しそうだが、生憎今僕は他の用件で忙しい。」
踵の音を響かせて、槙島が近寄って来る。
「知ったことか。この場で殺してやる。」
無感情に呟く慎也に、槙島は楽しそうに問う。
「刑事の言葉とは思えない。」
「お前に黒幕はいない。他の雑魚はお前に操られているだけだ。事件の真相はお前を殺した後でゆっくり調べれば良い。」
「成程。では僕を殺したら泉が哀しむと言ったら?」
「哀しもうがどうしようがアイツは俺が連れ戻す。それだけだ。」
揺らがない信念に、槙島は満足そうに笑う。
「以前会った時、死に掛けの君に止めを刺すことも出来たんだ。見逃した恩義を感じてはくれないのか?」
「精々後悔する事だな!」
その瞬間、二人が一斉に拳を振り上げる。
その様子を泉は階段の上から見下ろしていた。