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騎士の恋

第1章 喪失


夢を見た。

その夢は何時か見た光景だった。

彼はお城の裏庭の花壇の中に居た。私のように迷い込みでもしない限り誰も通ることの無い奥まった場所。その花壇の花はめちゃめちゃに踏み荒らされていて、その中に立つ彼はじっと足元を見詰めていた。

彼の足の下には踏まれた花がある。それはきっと彼自身が踏み乱したのだろう。

自分で踏み荒らした花を見下ろし、無表情の彼は何故かとても悲しそうに見えた。

騎士団の中で働く彼はとても有名だ。気品に溢れて剣の腕もたち、何時も優しく笑みを絶やさず、仕事仲間の女の子達からも絶大な人気のある彼が何処か泣いているように見えたのだ。
その光景がずっと頭から離れなかった。




その数日後、私は彼が任務で仲間を沢山失った事を知った。


私はその翌日、彼を見かけた花壇へと向かった。彼の後悔するような、そんな様子が忘れられなかったから。

手入れする人も居なくて未だに踏み荒らされたままだった花壇を私は出来る限り整えた。
勿論庭師のような知識や技術はない。でも無事な花は植え直して、雑草は抜いて足りない花は庭師の人から譲ってもらって一生懸命整えた。
以前より立派になった花壇を見て私は満足だった。

それからずっと、私は時間が有れば裏庭の花壇へと足を運ぶようになった。
水をやり、雑草を抜いて手入れをする。そんなに大きな花壇では無いので、仕事の合間でも十分に事足りる。

花壇の世話が楽しくなりかけた頃には、踏まれて一時は元気が無くなっていた花も元気を取り戻していた。そんな頃、あの人がまた花壇にやって来た。

私は息を潜めて近くの茂みへと隠れた。

もしかして、また花壇を荒らしてしまうのでは無いだろうか。

そんな心配をしたものの、彼はそんな事はせず。綺麗に整えられた花壇を見て驚いた様だった。
そして……




彼が笑ったのだ。

皆に囲まれて居るときに見せるような綺麗な笑みでは無く、無邪気な子供の様な、そんな笑みだった。笑みで周囲が明るく輝いたように見えた。

私はそんな彼を見てから、目が離せなくなった。彼が落ち込んでいないかと心配になって時おり女の子達にまじってこっそり見に行った。

彼を見かける度にどんどんと気持ちが募っていく。
きっと私はあの瞬間に恋に落ちたのだ。

そんな彼は今、副団長になっている。
騎士団の副団長、セルナール様。
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