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騎士の恋

第1章 喪失


「今から実家に帰るの?」

使用人仲間のアンナの言葉に私は大きな吐息をついた。

「うん、この後直ぐに出発するよ」

私はお城で使用人として働いている。特に美人とか可愛いとかでは無いけれど、幸いなことに私の家は貧乏ながらも貴族だ。身分は有った。
貧乏ゆえに幼い時から料理やら掃除やら屋敷では数少ないメイドにまじって色んな仕事をして来た。それを買われてお城で使用人として働ける様になったのだ。
これで少しは家に仕送りが出来ると喜んだ。お城仕えはお給金が良いのだ。

それに上手く行けば他の貴族や騎士の目にとまって、お金持ちで素敵な人と結婚と言うことも有り得る。とっても素敵な職場なのだ。

そこで働き始めて5年…21歳の行き遅れ気味の私にそんな素敵な出会いは未だに無い。



でも、そんな私にも憧れの人は居る。

それは騎士団の副団長をしているセルナール様だ。大貴族と言うとっても立派な身分の方で、25歳と言う若さで副団長と言う地位に上り詰めた実力のある人。
強くて優しくて頭がよくて、凄く紳士的で…とっても格好良いので女性に人気がある。
本当に素敵な人。私はそんなセルナール様に密かに憧れていた。

まぁ、私が適齢期の女の子達にまじって黄色い声を上げるわけには行かないので、こっそりと盗み見ているだけなのだけれど。


「…帰りたくない」

「まぁ、頑張りなよ。もしかしたら良い人かもしれないじゃない」

使用人仲間が私を励ましてくれた。実家に帰りたくないのには理由が有る。
それは、両親が決めたお見合いだ。

お城で働くことになって両親は喜んだ。きっと素敵なお金持ちと娘が結婚出来るに違いないと期待した。

でも、実際にはそんな事は無く。
使用人仲間がどんどんと結婚して仕事を辞めていく中で、今や私は結構なベテランになってしまった。

焦った両親が何処かから見付けてきた相手とこの度見合いすることになったのだ。

憂鬱でたまらない。

我が家は本当に貴族の中でも下位の身分。だから見合い相手の方が身分が上なだけに無下に断ることは出来ない。

励ましてくれる友人に礼を言って私は宿舎に向かう為に廊下を歩き出した。


夕刻のお城の中は人が少ない。仕事を終えて殆んどの者が家に帰るのだ。
渡り廊下に差し掛かり、ふと人が途切れた時だった。


私は背後から口を塞がれ、担ぎ上げられてしまった。
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