第3章 仕事のしかた
「それに、わたし、沖田隊長たちの……」
言おうかどうかためらわれる。
結構、紗希にとっては大事な話をしているのに、沖田はアイマスクしたまま、聞き流している。
あ、でもだから、言える、かな。
「沖田隊長たちの役に立ちたくなったんです」
反応がない。寝ちゃったのかな?
ちょっとだけ、首が動いた。
「ふーん……まあ、いいや」
それから沖田はしゃべらなくなった。眠ってしまったのだろうか。
戦場ではあんなに、強くて、速くて、残酷な人が、なんて無防備な……。
沖田は紗希を守ってくれた。もたもたしていたら切るとか言っておいて。ドジを踏んで、いつ怪我をしても、命を落としてもおかしくない危険の中にのこのこ入り込んでしまった紗希を、ちゃんと守ってくれた。
恐怖で動けずにいる中、来てくれた沖田が、優しかったのを覚えている。抱きしめてくれた腕が、あたたかかった。やさしかった。とても。
紗希も、つられたのか瞼が重くなってきた。眠い。
沖田は静かに腹を上下させている。
それを眺めながら、紗希も何だか安心して、目をつむった。
――あれ。すっかり寝ちゃっていた。壁に寄り掛かって。辺りはオレンジ色に染まっている。
なんだか暖かいと思ったら、肩からすっぽり、黒い上着が掛けられていた。真選組の制服。隊長格の。大きなそれの、重みが心地いい。
沖田隊長、やっぱり本当はやさしいのかも……。
「紗希ー? 紗希どこー?」
花梨の声。みんな帰ってきたみたい。
「おかえり」
上着を持って部屋に入ったら――
「ちょっと……ぷっ! アハハハハッ」
花梨が紗希を見ていきなり吹き出した。
「な、なに? どうかしたの」
「どうかしたのって、アンタその顔どーしたのよ」
爆笑しながら、花梨はなんとかそんなような意味のことを言った。
鏡を見てみたら。
ひどかった。ひどすぎる。
太い黒のマジックで、思いっきり落描きされていた。女の子の顔に書くようなことじゃない落書きが……。
「沖田隊長のバカー! もう上着返してあげないんだからー!」
屯所中に聞こえるように叫んだ。
沖田隊長なんて大っキライ!