第27章 ウェディングプランナー
自分でもすっかり忘れてた。
一年前。
トーコと別れた直後、
彼女の旦那の部下として働くことを
なんとかして避けたくて、
確かに、転勤願いを出した。
でも、あのときは通らなくて…
その後のことは、ご存じの通り。
荒れてた俺は
アキと出逢って
トーコとのことも
お互いの目の前でキッチリ終わらせて、
アキとつきあい始めたんだ。
アキも俺も、
少しづつ距離を縮めて
やっと穏やかな、俺たちなりの毎日を
手にいれたところ。
それなのに、
なんで、今?
事情なんか当然知らない彼は、
コーヒーを飲みながら、
ニヤリと言う。
『遊びの女じゃないんだろ?』
他意はないとわかっていても
その言葉に腹が立って…
喉元まで出かかった、
"あんたとはチゲーよ!"という言葉を
やっとのことで飲み込んだ。
『なら、
今から遠距離恋愛するより
結婚して連れてったらどうだ?
とりあえず結婚して
しばらくはお前が単身赴任、
…っていう手もあるしな。
どのみち、離れる前に
カタつけといた方がいいと思うぞ。
…決まったら、忙しくなるし。
早めに話しとけよ。』
『…はい。』
何も考えられなかったし、
はい、しか言えなかった。
電車で2駅の距離でも
なかなか会えない俺たち。
"単身赴任"に
ロクな思い出がない、俺たち。
俺は、連れていきたい。
でも。
『年齢的に
いつまで現場にいられるかわからないから
今は仕事でやりたいことがイッパイ。』
…そう言っていた彼女に
急に仕事を辞めてくれ、とは
とても言えない…
なんで、今なんだ?
一年後じゃ、ダメなのか?
…だけど、もとはといえば
俺のヘタレな逃げ腰で、
自分で出した転勤願い。
責めるとしたら、
あのときの弱い俺自身だ…
その日の午後は
仕事が手につかなかった。
考えても考えても
どうしたらいいか、わからない。
アキに話そうとも思ったけど、
その前に、
俺の気持ちの整理が必要だった。
…こんな時に
話し相手になってもらえるのは
将一さん、だろ。
"おでん屋 大将"の、大将。
その夜、
手につかない仕事を早めに切り上げて、
俺は一人、
"大将"の暖簾をくぐった。