第10章 壊れた壊した壊された ー神崎颯馬ー
「それで、その方法とは?」
生徒会長が気を利かせてアドリブでそう言ってくれる。俺は、ゲーム通りに答えた。
「そりゃあ、魔法には魔法っしょ!王子、目覚めの魔法をお願いします!」
「うむっ!!」
神崎サンにはここ数日、そのゲームについて熱弁ばかりしていたので分かったらしい。
「では、魔法をかけようっ!歌を歌って、姫に魔法をかけてみようっ!!」
神崎サンが歌い出す。ゲームで使われている歌ではない。何の歌か、と思えば月永サンがニヤニヤ笑っている。あぁ、あなたが作ったのか。良い歌ですね。
姉ちゃんは黙ってその歌を聴いていた。
音を拒まずにずっと聴いていた。その歌が終わったとき、会場はちびっ子達や保護者の拍手喝采で盛り上がった。
神崎サンが姉ちゃんに手を伸ばす。神崎サンのその手を姉ちゃんが握った。
あぁ、姉ちゃんアドリブできるかな…
と少し心配だったけど。
「ありがとう」
今日一番の声で姉ちゃんは確かにそう言った。
会場が再び拍手喝采で包まれる。幕が閉まって、皆舞台から出て行くもの姉ちゃんは俺に向かってニコリと笑った。
「……姉ちゃん」
「…?」
首をかしげる。俺は、次の言葉が出て来なかった。俺は、何て言いたかったのか。
皆が片付けをする中、俺は演劇会場の外でボケーッと座っていた。ちびっ子達が子人さんだ、とか言って来たけどもういない。
そんな俺の隣に、誰かが座る。
「何をしている」
「神崎サン」
神崎サンはジャージに着がえて何の意味があるのか刀を持っていた。
「俺は、元々超インドア派でね。力こぶなんてこれっぽっちもないんだ」
ほら、と腕まくりをして力こぶを作る。自分でもフニャフニャとしたほっそい腕だと思う。
「大丈夫か?」
「何が」
「ずっと苦しそうな顔をしている…」
神崎サンがじぃっと俺を見てくる。あぁ、ダメだ。やっぱダメだ。
「……………スンマセン」
俺はフラリとその場に倒れた。
神崎サンの声が聞こえるけど、こたえられなかった。