第10章 壊れた壊した壊された ー神崎颯馬ー
___いや、起きて、起きて!
落ち着いて、あんずさん!
誰かが俺を呼ぶ。このままなら良いのに。ゲームみたいな世界なら良かったのに。
それなら、良かったのに。
俺の目は覚めた。瞼を開けるのもわずらわしかったが、ゆっくりと開けた。
「再発、らしいですよ。」
いつからいるのか日々樹サンがベッドの脇のイスに座っていた
「小さい頃に病気を持っていたんですね。ここは病院ですよ、わかりますか?」
日々樹サンは薄くほほえむ。その視線の先には、壁際のイスで姉ちゃんに膝枕をして眠っている神崎サンの姿があった。
「お礼を言うのですよ、救急車でなく、彼が運んだのですから。」
そうして、日々樹サンは出て行った。それと同時に、神崎サンも目を覚ます。
「おぉっ!目を覚ましたか!起きられよ、あんず殿!!」
姉ちゃんを揺さぶって起こす。ゆっくりとゆっくりと姉ちゃんは瞼を開ける。
「っ…!」
パクパク口を動かし、震える手を伸ばして生まれたての子鹿みたいに姉ちゃんは俺のとこまで来た。
いつも以上に頭がショートしているらしい。何も言えていない。
ボロボロとまず泣いて、あー、とかうー、とか唸る。
「……泣くなよ」
「…うぅ」
姉ちゃんは必死で涙を拭うも更に出てくる。ゴシゴシこすってもまた出てくる。
神崎サンが慌ててハンカチで姉ちゃんの涙をそっと拭う。しかし、火がついたように姉ちゃんは泣き出す。
「あ、あんず殿!あんず殿!!」
「うあぁ…っ颯馬、くん…えぇん………!」
ギューッと抱き合う二人。あーぁ、完璧俺のこと忘れてんな…。
病気が再発したんなら、また病室内でのインドアゲーム生活が始まる。そうしたら、この二人にも会いにくくなるなぁと思えば寂しいもんだ。
最後に、言っておいてやろう。
「ふふん♪そんなんで大丈夫なのかな~。姉ちゃん泣かしていいのかなぁ~。
兄ちゃん!」
俺は柄にもなく笑って見せた。神崎サンは真っ赤になってフリーズしていて、姉ちゃんは笑っていた
あぁ、楽しい。これは何だ、そうあれだ。
乙女ゲームってことで楽しもう。