第14章 Ephemeral(黄瀬涼太)
星型バルーンは無事に作れたんだけれど、なんとなく離れがたくて……まだ私は涼太の前を陣取っている。
涼太も、はやくどいてとは言わずに受け入れてくれているから、つい甘えてしまって。
なんだか、結婚前の恋人同士だった時を思い出す。よくこうやってお休みの日に二人でくっついて映画観たりしたなあ。
今となっては、ここは子ども達の専用席だから。
「はー、誕生日くらい朝から晩までのんびりしたいっスわ」
ぽす、と肩に涼太の頭が乗った。
さらさらの髪からはシャンプーの良い香りがする。
「ほんとだね、毎日忙しいのに」
涼太は、指先を使って私の毛先で遊んでる。ふたりきりの時だけの、彼の癖だ。
「結婚前はよくやったっスよね、こうやって映画観たり」
「うん、今私も思い出してた」
「一日ベッドで過ごしたりね」
「う」
「忘れちゃった?」
「ううん、忘れて、ない、けど……」
忘れられる訳がない。
あんなに、あんなにも濃密な時間を過ごしたのは、後にも先にもあの時だけだろう。
今は、自分以外の守らなければならないものが増えたから。
「今思えば、なんであんな朝から晩まで……若かったっスわ」
「ほんとに……」
本当に、あの時期のやらかしは若さとしか言いようがない。若かった。ただひたすらに、若かった。
涼太って、過ぎたことはカラッと忘れてそうに振る舞うのに、全然そんなことないんだよね。
時々、私でも忘れかけてたことを言ったりするからドキッとする。
「ま、今は今の楽しみ方があるんスよね」
「ひゃっ」
顎に手がかけられたと思ったら、そのまま後ろを向かされて……唇が、重なった。