第14章 Ephemeral(黄瀬涼太)
玄関のドアを開けて、家の中の気配を察知しながら、音を立てないように閉める。
廊下の先のリビングから出てくる人影はない。
夫……涼太はきっとまだ夢の中なのだろう。
昨日は仕事がかなり長引いてしまったみたいで、帰って来たのは朝方だった。
私も日が変わってから少しは起きて待っていたんだけれど、途中目を覚ました子を寝かしつけているうちに一緒に寝落ちてしまって、まだ起きている彼には会えてない。
音を立てないように静かにリビングで過ごそうと考えて、ふと気がついた。
スマートフォンが、ない。
思えば、今日はまだ一度も見ていない。
寝室に置きっぱなしで出てしまったのだろう。
万が一子どもに関する連絡などが入った時に連絡がつかないと大変だから、ちゃんといつも手元に置いているのに。
今朝はバタバタしすぎて、自分の持ち物のことまで考える余裕がなかった。
どうしよう……元々あまり見ることもないからなくてもそんなに困らないんだけれど、鳴ったりしたら起こしてしまう。大丈夫だよね、タイマー、セットしてなかったよね?
でも、こういう時に限って鳴るのが電話というやつで。
取りに寝室に入るのが憚られる。
寝ている彼を起こしたくない。
そっと取りに行けば大丈夫かな。
空気の流れが大きくならないよう、息を止めてドアを押し開く。足音を殺して、ベッドの上に転がっていたスマートフォンを回収した。
涼太、微動だにしない……熟睡してるんだろう。
彼は疲れているとうつ伏せで寝ている事が多い。昨日のお仕事が、相当ハードだったことを物語っている。
睫毛、長いなぁ……うっかり触れてしまいそうになって、慌てて手を引っ込めた。
いけないいけない、さっさと退散しないと。
ご飯は身体に優しいものにしてあげよう。