第118章 幸せな時間明けの日常は夢オチを疑う。
一体どれ程の時間、唇を重ねていた事だろう。それほど長い時間は経っていないはず。だが突然の事すぎて状況を把握出来ていない葵咲は、一刻以上の時を有しているようにさえ感じた。暫くの間 唇を重ねていた二人だが、やがて土方は静かに唇を離す。
土方「・・・・・。」
葵咲「・・・・・。」
唇を離しても呆然として固まったままの葵咲。ピクリとも動かない。完全に全てが停止している。気まずくなった土方は目を泳がせて顔を赤くする。そして右手で口を覆いながら葵咲に背を向けて立ち上がろうとした。
土方「・・・・あー…いや、悪ィ。じゃ。」
ガシッ!
立ち去ろうとする土方を見て葵咲は我に返る。そして慌てて袖を掴み、土方が立ち上がるのを阻止。今一体自分の身に何が起こっていたのか、一瞬で全てを把握した葵咲は顔を真っ赤にして大きな声で叫ぶ。
葵咲「ちょ、ちょ、ちょ!『じゃ。』って何ィィィィィ!!」
土方「オメーが固まるから気まずくなったんだろーがァァァァァ!!」
叫び合う二人だが、ここで葵咲は頬を高揚させたまま土方の目をじっと見つめて真剣な言葉を投げ掛ける。
葵咲「なっ、なっ、…なんで?」
土方「っ!!アホか!いくら何でも好きでもねぇ奴相手に んな事出来るわけねーだろ!惚れてるからに決まってんだろうが!!」
葵咲「・・・・え?」
再び時が止まる。今、何て言った?土方の言葉を理解するまでに少しの時間を要する。葵咲は目を丸くして土方を見つめた。先程と同じ状況。だが今度は土方は立ち上がらない。葵咲から視線を逸らしながらも、何処かすっきりした顔を浮かべて一つ息を吐き出した。
土方「…あー。スッキリした。」
いつもと何ら変わりない、普段通りの土方。そんな土方の横顔を見て葵咲は再び我に返る。そして土方の袖をきゅっと握りながら、その顔を見上げた。
葵咲「ちょ、ちょっと待って!…それ、ホント?」
土方「この歳になって冗談でこんな事言えるかよ。」
少し呆れた顔を浮かべて土方は葵咲の方へと視線を向ける。葵咲の顔を見ると、信じられないといった表情を浮かべている。それを見た土方は何か思い立ったように慌てて言葉を継ぎ足す。
土方「あ、言っとくが酔っ払ってもねーからな!」
葵咲「・・・・・。」