第8章 再会
部屋へ着くと、春香は座り込んでしまった。
その顔に、表情はない。
「春香…」
「本当に…」
「え?」
加州が横にしゃがみ、そっと肩に触ると、そちらへ振り返り、涙をポタポタと流し始めた。
「本当に…記憶って消されるんだね…ここに一期が居たことが、嘘になっちゃった…」
「…」
加州は、春香に、何も言えない。
涙を溢れさせながら、自嘲の笑いを浮かべている。
「じゃあ…私のこの気持ちも…嘘なのかな…」
「嘘な訳ないじゃん!嘘なら、なんで…なんで、そんな顔して泣くんだよ!」
加州は、気づくと春香を抱きしめていた。
今にも壊れてしまいそうな、その心を少しでも、温められる様に。
溢れて止まらないその涙が、少しでも収まる様に。
「…大丈夫だから。春香の気持ちも、想いも、消えた訳じゃない。なら、もう一度さ、一期に好きって言わせなよ。春香なら、出来ると思うよ?」
加州は笑顔を作ってみせる。
正直、心の中はぐちゃぐちゃだ。
やっと、普通に笑ってくれる様になったのに。
大好きな、春香の笑顔が毎日見られる様になったのに。
少しこちらを向いてくれていたのに。
また、一期は春香の気持ちを持って行ってしまうのかと、嫉妬と苛立ち、悲しみ、色んなモノが混ざり合ってしまっていた。
それでも、春香の前では、思ってもいない、お膳立てをして、笑わなければと思ったのだ。
少しでも、気持ちが軽くなる様に。と。
「ありがと…ミツ…でも、暫く…このまま…泣いてもいいかな…?」
加州がコクリと頷くと、春香は加州にしがみつき、声を上げて泣き出した。
その背中を、加州は優しく、そっと泣き止むまで撫で続けた。