第7章 建前と本音
「んっ…ミツ…なんで…」
加州の目の前では、春香が困惑した様子で瞳を揺らしている。
「なんで…?ずっと、好きだったからに決まってんじゃん…」
「えっ…」
目を見開いた春香に、加州はため息を吐いた。
「やっぱ、気づいてくれてなかったんだね…どんだけ、鈍感なんだよ…」
「ご、ごめん…だって、ミツは…っ!」
「『近侍だからあり得ない』って思ってたんでしょ?」
「…!」
図星だと言う顔をされ、加州は少し自分が情けなくなってきた。
ふっと腕を緩めると、加州と少し距離を取った。
それでも、その目は加州から離れず、じっと見ている。
「…こんな状態で言われても、困るよね…俺だって、やっと言えたんだから。って…俺、何言ってんだろね…ごめん…」
自分でも、苦笑いをしてしまう。
そんな顔をさせたくて、言った訳ではなかった。
へたっと座り込んでしまった春香の方を見る勇気がなくなってしまった。
ダメだと思い、部屋を出ようとした加州の手を、春香が掴んだ。
「なんで、掴むんだよ…」
加州は情けない声が出てしまった自分が悔しいと思った。
「分かんない…でも…今、ミツに行かないでって思った…都合の良い女でごめん…」
春香も、情けない顔をしている。
そんな顔でさえ、愛しいと思っている自分の重症さに、自分でも驚きながら、座り込んでいる春香の頬にそっと触れてみる。
拒否はされなかった。
「春香を困らせたい訳じゃないから…でも…それでも、好きなんだ。」
「ミツ…んっ…はっ…」
今度は優しく、丁寧に。
気持ちが少しでも伝わる様に。
長いキスをした。
唇を離すと、目の前の瞳が少し潤んで、揺れている。
そっと春香の手に手を重ねると、握り返してくれた。