第7章 建前と本音
そっと廊下を通り、酒やつまみを用意して縁側へ行くと、二人で今日の話をし始めた。
会話の盛り上がりとともに、春香は酔いが程よく回り始めている。
目をトロッとさせながら、自分の気持ちを鶴丸に話し始めた。
「あのね、鶴丸。忘れられない人の事って…どうやったら、忘れられるのかな…」
「忘れられない人…ね。まあ、ほっといても、いつか忘れる日も来るかもしれないけどな。…なんで俺にそんな事を聞くんだ?」
誰の事なのかは、鶴丸にもすぐに分かった。
それには、あえて触れずに、話を聞いている。
「なんでかな…わかんないや。酔ってるから…かな?」
少し、寂しそうに春香が笑う。
それを、見た鶴丸が、少し考えて答えた。
「まあ、忘れたいってんなら、忘れる方法もあるぜ?」
その言葉に、春香は、切実な表情で聞き返した。
「…どうしたらいいの…?」
と、鶴丸が、息がかかるくらいの距離にまで近づいてきた。
「鶴丸…?」
「例えば、俺と、新しい恋に落ちてみる…とか。」
次の瞬間には、鶴丸にキスをされてしまった。
「…っ!?な、何言ってんの…?」
逃げようとしてみるが、すでに腰に手を回されて、逃げられない。
「何って、昔の恋を忘れる方法に決まってるだろ?んっ…」
手で、拒んではみるが、思ってもみないほどの甘いキスをされ、どんどん力が抜けていく。
それが余計に、鶴丸を煽る形になってしまった様で、耳元で名前をそっと囁くと、今度は優しく顎を持ち、もう一度キスをしようと近づいてくる。
春香は、この甘過ぎる状況に飲まれ、されるがまま、目を閉じてしまった。
「春香‼」
加州の叫び声で、はっと我に返り、寸前で鶴丸のキスを手でふさいだ。
「ミツ!?」
「おいおい、せっかくのいい雰囲気を壊さないでくれよ。」
鶴丸は、少しオーバーに、手を上げてやれやれと言う顔をして、ため息をついた。