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【ハイキュー】エンノシタイモウトこぼれ話

第54章 【王者の恩返し】 その1


「妹を貸してほしい。」

唐突な一言に力は硬直、当然貸してほしいなどと言われた美沙も事態が飲み込めずにいつもの突っ込みがでない有様、
烏野のメンバーもほぼ全員が声もなく驚愕する。
一等最初に声を上げそうな日向が叫ばなかったのは、さしもの彼も騒ぐのはまずいととっさに思ったのか単にビビりすぎて声が出なかったのか。

牛島の後ろで見守っていた白鳥沢勢もまぁまぁ動揺したらしい。
副主将の大平獅音、瀬見、リベロの山形隼人があの馬鹿と言いたげに頭を抱えているし、
1年の五色工が何を思ったのか顔を赤くしてアワアワ、2年の川西太一は表情こそ変わっていないがうわーと言いたげな雰囲気で、
天童覚は面白そうとニヤニヤ、白布賢二郎だけは冷静な様子を見せている。

「あああ、ええと」

力は返事をしようとして声が上ずった。

「今回は何のご依頼でしょう。」

仕事か、と突っ込みたいが実際この時内心で動揺していた力は、まさか何かの動画に美沙の出演依頼じゃないだろうなと割と本気で思ってしまっていた。

「むしろ先日の礼がまだだった。」

対する牛島はやはり静かに言う。もしかしたら、何故に自分のチームも含めた一同が動揺しているのかわかっていないのかもしれない。
ただ、ここで縁下兄妹はすぐにああ、と納得した。
先日烏野が白鳥沢で練習試合をした時に、牛島の推薦と依頼で急遽美沙が呼ばれて試合の撮影をしたのである。
あの時牛島はその礼をするといい、美沙は食べ物を所望した。

兄妹がわかった事を察したらしい牛島は今度は美沙に視線を移す。

「エンノシタ、美沙」
「はい。」
「希望は食べ物だったな。」
「はい。」
「食事に行こう。」
「はい。」

最後に発した美沙の"はい。"は疑問形だ。
サラリと言われて、一瞬今この人なんて言うたと思ったのである。

「いい加減、話をしなくてはと思っていたが」

やはり牛島は縁下兄妹及び周囲の動揺には気づいていないらしい。

「スケジュール調整と店の選定に手間取った。」
「そらえらいお手間をかけてもて」
「こちらの問題だ、気に病むことはない。」

言って牛島はスマホを取り出して何やら操作をし、

「ここなのだが。」

画面を兄妹に見せた。

「あ。」

美沙は小さく声を上げた。
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