My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「お前の中で、感情の整理がついていないことはわかった。今はそれだけわかればいい」
間近にある顔が距離を縮めて、長い黒髪がさらりと肌に触れる。
「前にも言っただろ。理由は話せなくたっていいから、しんどい時はそう言えって。俺はただ触れる為だけにお前の傍にいる訳じゃねぇよ」
ああ…そっか。
ユウがアレンと喧嘩してでも報告書まとめに拘ったのは、私の傍にいてくれようとしたからなんだ。
温もりを分かち合う為だけじゃなくて、心を分かち合う為に。
ぽふり、ぽふりと。
優しく背中をあやすように撫でる大きな掌。
じんと胸が震えた。
「…うん」
本当、クロエの言う通り。
私には勿体無いくらいの人だ。
でも…どんなに私と釣り合わなくたって、手放せない。
手放したくない。
この温もりを、一番に感じていたい。
「少しだけ、疲れたかな…でもこうしていれば、落ち着く」
だから、
「もう少し、触れていていい?」
イザベラやクロエの知らない、ユウの姿。
それをもう少し、独占していたい。
おずおずと頼み込めば、間近にある顔がふと和らいだ。
あ…優しい顔。
「───、」
近くにあった顔が僅かな距離を縮める。
キス。
そう悟った体は自然と力が抜けて、ユウに身を預けていた。
ふわりと優しい柔らかな感触。
それが何度も降りてくる。
ふわり、ふわり。
優しいキスの雨。
愛の言葉みたいなものはあんまり口にしないからかな。
代わりに、こうしていつもユウは行動で示してくれる。
抱きしめて、触れ合って、唇を寄せて。
その一つ一つがユウの"言葉"だ。
薄い唇が額に触れて、頬に触れて、鼻先に触れる。
くすぐったさに思わずくすりと笑いが漏れると、ユウの唇は肌を辿って鎖骨に埋まった。
「ん…っ」
鼻に掛かった吐息が漏れる。
薄い肌に触れているユウの唇が、柔らかく吸い付いてくる。
さっきまでの優しいキスとは違う。
「ユウ…?」
吸い付いては、跡を残すように舌先が触れる。
愛撫するような仕草に、ついユウの肩を掴んでいた。
え、っと。
これは…その…もしかして、そっち?
ユウに抱きしめられた体は逃げ場がない。
心地良いこの温もりから逃げる気もないけど…本当にアレンの言う通りになってしまうようで、なんだか恥ずかしい。