My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「何か嫌なことでもあったか」
「……うん」
「それで疲れてたのか」
「…少し、しんどくなった」
「やけにテンション上げてたからな、ミラー達といた時」
「あれは、普通に楽しかったんだよ?クロエには久々にお腹抱えて笑わせてもらったし」
ユウに促されながら、ぽつぽつと感情を吐き出していく。
辿々しい言葉も、少しずつだけど会話にすることができた。
「私ね…ユウが、好き」
「…なんだ急に」
「エクソシストだとか、第二使徒だとか関係なく、神田ユウって人が、凄く好き」
頭に触れていた手が、ゆっくりと下がる。
大きな掌が頬に触れて、自然と頬を擦り寄せた。
「それと同じに…"それ"がなんであったって、嫌えないものを見つけたの」
イノセンス。
それは私にとって、苦痛しか与えない存在。
苦痛と、両親を奪っていった存在。
触れると痛みを伴う、怖いもの。
だけど。
今私の首元で揺れているこの結晶を、嫌いになんかなれない。
これは私の父が唯一残してくれたものだ。
遺体の炭一つさえ、遺品の欠片一つさえ残せなかった両親が、それでも確かにこの世に生きていた"証"。
「触れると怖いけれど、私には大事なものなの。大事だから、嬉しくて…哀しい」
上手く、言えない。
この感情を、上手く言葉に表せられない。
痛い。
痛いのは怖い。
怖いものは、苦手。
でもこれは違う。
出会えたことは、またこの手にすることができたことは、嬉しい。
でも、同じに哀しい。
耐えていないと顔が歪んでしまう。
涙が出そうになる。
父と共に生きていたものに、拒絶される自分自身が。
「っ…ごめん。支離滅裂だよね」
「別に、そういう時もあるだろ」
「っ?」
頬に触れていた手が離れる。
と、腕を掴まれ引き寄せられた。
強いけど、部屋に放り込まれた時とは全く違う強さ。
思わず腰が浮いて前のめりに傾けば、あっという間に体は二つの腕に捕まってしまった。
引き寄せられて、腰を落ち着けたのはユウの膝の上。