My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
「その…」
サードに知らされた、父のイノセンスの存在。
それは私の心を抉って、不快感を露わにさせた。
父のイノセンスに対してじゃない。
適合者が亡くなってもまだ、教団に利用され続けていたことに。
…父が亡くなってしまえば、イノセンスは所有者から離れる。
これはもう父のイノセンスじゃない。
わかってる。
でも、止められなかった。
憎い、と思った。
目の前で平然と告げたマダラオも、それを黙っていた教団も。
憎しみは腹の底から何かを込み上げさせて、私に力を与えた。
父のイノセンスに当てられたから、だけじゃない。
きっと、私の感情がノアの力を暴走させたんだ。
爆弾なのは、私自身。
「………」
「なんだよ」
なんて言えばいいのかな…。
ユウはあの暗い地下の独房の中で、思ったことは口にしろって言ってくれた。
言葉選びが下手でもいいから、言いたいことは伝えに来いって。
でも…イノセンスは、ユウにとっても鬼門かもしれない。
エクソシストとして造られたユウは、私と同じにイノセンスに苦痛を与えられる実験を何度も繰り返していたから。
もしイノセンスを憎んでいたら。
そう思えば中々言葉は吐き出せなかった。
迷う私に気付いたんだろう、視線だけじゃなく顔をこちらに向けてくる。
「どうした、なんかあるのか」
「…それは…」
伝えたい、と思ったけど。
伝えてもいいのか、と不安になって。
伝えられない、と唇を噛む。
これは私と、私の父と、私の父のイノセンスと、そして教団の問題。
ユウは教団(ここ)でしか生きていけない人だから…こんな教団への黒い思いを伝えてしまってもいいのか。
こんな黒く染み付く思いなんて、曝け出せない。
俯き加減に、目の前のユウの掌を見つめる。
すると頭上から降ってきたのは溜息。
また言葉を閉ざすって…呆れられたのかな。
「よくわかんねぇが、言いたいことがあるなら言え。言えないなら無理するな」
見つめていた掌が視界から消える。
代わりに、ぽふりと頭に優しい衝撃。
顔を上げれば、私の頭に手を伸ばすユウの顔は…眉間に皺なんか寄せていなかった。