My important place【D.Gray-man】
第46章 泡沫トロイメライ
ちらりと、報告書から隣のユウへと視線を上げる。
すぐ近くにある端正な横顔は、真っ直ぐに報告書だけを見下ろしていた。
一時間前にはくっきりと青痣を残していた顔も、今では薄らと青さが残る程度。
流石第二使徒…治りが尋常じゃない。
私もこれくらい治りが速かったらなぁ…首の火傷の跡とか、気にしないで済むんだけど。
「んだよ」
そんなことを考えていれば、下がっていたはずのユウの目がこちらに向いていた。
真っ黒な瞳と重なってドキリとする。
美形をドアップで見るのは、いつまで経っても心臓に悪い。
…や、ユウだってこともあるんだろうけど。
「ううん、何も」
ぱっと顔を離して笑顔を向ければ、じろじろと見てくる二つの眼孔鋭い目。
な、何?
「もう平気か」
「?」
何が。
問われた意味がわからず首を傾げる。
平気?
「ここが、いつもより下がってた」
とん、と長いユウの指が触れたのは私の肩。
肩?
「肩、下がってた?」
「少し疲れてるように見えただけだ。平気なら別にいい」
下げてた覚えなんてない。
寧ろクロエの薄い本に盛大に笑わせてもらって、元気だった気がするけど。
再び報告書に向き直りながら、あっさりと会話を終わらせるユウはいつもの彼らしさを残したまま。
だけど、あっさりとした言葉は確かに私の心に落ちてきた。
…疲れてたかは、わからないけど…しんどさは在った、はず。
サードとの訓練で知った事実は、私の心に黒い染みを作ったから。
ユウの洞察力の凄さは今更だけど、そのしんどさに気付いたのかな。
明白なことはわからないけれど、深く突っ込んでこない所は、きっとユウの優しさだ。
…ノアのことも、そう。
「…ユウ、」
思ったことは、いつもはズケズケと言うユウだから。
素っ気なさそうに声を掛けてくれるのは、気にしていない訳じゃなくて距離を大事にしてくれてる。
何かあれば言えって、よく言ってくれていたから。
その優しさを感じると、自然と口は開いていた。
「なんだ」
「…あのね、」
私のこの抱えたしんどさを、彼は受け入れてくれるだろうか。