My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「…っ」
喉元まで引っ掛かってる気がする。
あの人の、名前。
あの人が誰なのかもわからないのに。
人間臭い表情が特徴的な、そんな印象が残ってる。
貴方は誰。
「…誰なの」
思い出したい。
でも、引っ掛かったまま喉元から名前は出てこない。
思い出せない。
それが歯痒い。
ただ呼びたいだけなのに。
……呼びたい?
あれ…なんで私、そんなこと思ったんだろう。
『俺の名前を呼べ。見失わずにいたら、応えてやれるから』
──あ。
誰かは、わからないけれど。
何故かその声をはっきりと思い出した。
迎えに来るって、確か…そう、言ってくれた声。
掴めない人だけど、いざという時は優しかった。
そんな気がする。
…思い出したい。
「…………はぁ」
だけど、どんなに頭を捻っても望む名前は出てこなかった。
じっと考え込んだ末の、大きな溜息。
なんだろう…寝過ぎでもしたのかな。
頭が上手く回ってないのかも。
目を覚ます意味でも、額を掌でたんたんと叩けば、体が目覚めてきたのか。じくじくと地味に痛んでいた体中の火傷の痛みが、少し増した気がした。
「……痛い」
堪らず呟いて、もう一度机の上の薬に目を向ける。
……婦長さん、私の為に叱ってくれたんだよね…。
私がノアだって…教団にとって敵だって、わかってるはずなのに。
私の手当てを的確にこなしてくれる手は、迷いなんて見当たらなかった。
あの時は呆然と、それを見守るしかできなかったけど…。
…婦長さんのことを思えば、飲める、かな…ちゃんと。
恐る恐る机に歩み寄って、薬に手を伸ばす。
カプセル状の固形物。
ちゃんと見た目で"薬"だとわかる。
料理や飲み物に混ぜて、誤魔化すようにして飲ませてきていた過去のものとは違う。