My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「決断したら早ぇさ…」
席を立ってから数分も経たず。あっという間に部屋を後にし消えた神田に、ドアを見つめたままラビが感心気味に呟く。
後ろ姿を目に焼き付ける間もなく、酒の残り香さえ残さないような神田の行動の早さは、迷いなど一つも見当たらなかった。
「さて、と。それじゃあ私もひと仕事するかな」
「師匠…私もお供してよろしいですか」
「うん? 嬉しいねぇ、心配してくれているのかい?」
マリのように心音を読み取る能力など持っていなくとも、ティエドールには我が子である神田やマリの気持ちがよくわかるらしい。
不安げな顔を向けてくるマリに、のほほんと緊張感なく笑い返した。
「でも大丈夫だよ。このことは、私とマーくんの秘密にしておこう。いいね?」
「…わかりました」
「うん。それとラビ、君も大人しくしてること。ブックマンに知られたら大目玉を喰らうだろうからね。私が上手く話をつけてくるよ」
「え、あ……スミマセン」
ちびり、ちびり。グラスに残っていた琥珀色の液体を口に含みながら、やんわりと二人に指示を向けるティエドール。
本当に一人で全責任を負うつもりらしい。
いきなり話題を振られ、ぽかんと拍子抜けしたラビはおずおずと頭を下げた。
「…その…ありがとう、ございます」
「御礼なんていいよ。君だって雪ちゃんのことを思って行動してくれたんだろう? 寧ろ私に礼を言わせてくれないかな」
ゆっくりと飲み続けていたグラスの液体が、やがて空になる。
「へ? なんで…」
「君の真っ直ぐ偽りない本音は、ユーくんにも響いたと思うからさ」
それに、と付け足して空になったグラスをコトリと机に置く。
そうして、子を思う親のような顔でティエドールは微笑んだ。
「息子の特別な女性(ひと)なら、雪ちゃんは私にとっても娘同然だからね」