My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
沈黙は一瞬だけだった。
行動を示したのは神田。
音もなく席を立つと、テキーラの瓶を差し出すように前へと押し出した。
「これは全部やる」
「うーん。嬉しいプレゼントだけど、このお酒は少し私には強過ぎるみたいだからね。ユーくんと一緒じゃなきゃ飲み切れないよ」
笑顔で肩を竦めると、ティエドールはやんわりと首を横に振った。
「だから預かっておこう。また君と一緒に酌み交わせるように」
「……」
その言葉に、神田は返事をしなかった。
ただ真っ直ぐに立てた背筋を綺麗に倒すと、ティエドールに一礼して。さっと顔を上げた時には、早々背を向け顔は外に繋がるドアへと向いていた。
「あっユウ! 雪の居場所は──」
「知ってる」
慌てて詳細を告げようとするラビを一言で制すと、足早に向かったドアノブを掴む。
「神田、」
再び呼び止めたのは、ラビではなくマリだった。
顔だけ振り返る彼に、少し迷うように一度口を閉ざして。
「…雪が今抱えている思いは、私にもわからないが……神田。お前を想う気持ちに、偽りはなかった。それは確かだ」
「……」
やがてゆっくりと伝えられたマリの言葉に、神田の表情が変わることはなかった。
無言のままドアへと向くと、そのまま呆気なく部屋を出ていく。
「…知ってる」
ぱたんと、ドアが閉じる間際。ラビへの返答と同じ言葉で返された応えは、辛うじてマリの耳にだけ届く微かなものだった。