My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
グラスの縁を指先で撫でて、ふとティエドールの口元に笑みが浮かぶ。
思い出したのは、初めて神田と雪の仲に気付いた時のこと。
あれはロシア、サンクトペテルブルクでの任務だった。
ピョートル大帝宮殿という世界遺産での合流地点で、神田達を待っていたティエドールが目にしたもの。
それが声を荒げながら姿を見せた、二人の姿。
『いっつもそうやってミランダさんにきつく当たって! 悪いことなんて何もしてないでしょ! 寧ろその場で待機って言ったのに動いたユウが悪い!』
『俺の所為じゃねぇよ! 変な男がやたらと体に触れてくるから返り討ちにしてやったら、暴行だなんだ喚きやがって…ッ』
『ま、まぁっそんな大変なことがあったのっ? ももももしかしてエクソシストを狙ったAKUMAだとか…!』
『いや、ただの軟派男だったんだ』
『…え?』
『…軟派?』
『神田を女性と間違えてたみたいで。セクハラ紛いな軟派をしてきた男だったんだ』
『『……』』
『おいマリ余計なこと言うなッ!』
マリとミランダも交えた任務だった。
いつまで経っても現れない神田とマリを迎えに行った雪とミランダ。
内容は合流時間に遅れた神田を雪が咎めるもので、決して淡く優しい会話などではなかった。
それでも、そんな四人の姿だけでティエドールには充分だった。
神田と雪。マリとミランダ。
それぞれ互いを見る互いの目が、互いに立つ間の距離感が、何よりも物語っていたから。
昔に偶然見つけた、小さな小さな感情の芽生え。
それは確かに花を咲かせ実を結んだのだと。
それだけで、世界遺産である宮殿の見事な噴水が掠れて見える程に、ティエドールには眩しく輝いて見えたのだ。
「見せられる相手がいるなら、彼女には出してごらん。君程の心を溶かした相手だ。然るべき目で見て、応えてくれるはずだから」
「……今更、」
優しく促すティエドールの言葉に、毒気を抜かれた神田の声が静かに絵の具の匂いが浸みた部屋に響く。
「どうしろってんだよ……俺にできることは限られてる」
自分はエクソシストで。
彼女はノアで。
聖戦の中心地である黒の教団では、その立場が足を縛り付ける。
その場に縫い付けられて、上手く身動きは取れない。