My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「"知らなかった"で済む問題じゃねぇんだよ。無知は罪さ。雪のことを表面だけ見て知った顔してんなら、そんな奴に雪はやれねぇ。手ぇ出す気がないなら、今後一切関わるなよ」
宣戦布告のようなラビの最後の言葉に、神田は微かに反応を見せた。
黒曜石の真っ黒な瞳を彼へと向けて、睨み付けてくる眼光を受け止める。
「……」
しかし固く結ばれた唇が動くことはない。
「神田…」
何故そこまで頑なに動こうとしないのか。
マリは顔を渋めながら、二人の緊迫した様子を伺っていた。
パリのハースト孤児院で聴いた、昔に戻ったような感情の見えない神田の鼓動。
それが雪の正体故のものだと知った時、マリは疑問を抱いた。
暗く冷たいアジア研究所から抜け出してから9年間。
誰とも密な関係を作ろうとしなかった神田が、唯一心許した相手。
それ故に想いの強さも大きさも生半可なものではないと、確信していたからだ。
確かに雪がノアだと知った時の衝撃は、決して小さなものではなかった。
しかしそれだけで神田が雪を切り捨てるとは思えない。
教団に実験を強制させられ、命を捻じ曲げられ、周りを恨むように生きていた神田を知っていたからこそ。
唯一心許した女性より、教団を取るとは思えなかった。
なのに何故。
(何故なんだ、神田)
心の中で問いかける。
ドクンドクンと一定の音を打ち鳴らす、神田の心の臓に向けて。
──ドクン、ドクン
鳴り響く心音は、昔によく聴いていたもの。
感情の起伏を見せない一定のもの。
任務で怪我した耳では、いつものようには音を拾えない。
耳を澄ませるように、マリはそっと無事な方の耳へと手を添えた。
──ドクン、ド クン
「……?」
拾ったのは、僅かな"乱れ"。
つい俯きがちだった顔が上がる。
盲目の目では神田の表情を伺うことはできない。
しかしマリにだけ聴こえる心音が、確かに"感情"を示していた。
(これは──…)
それは、耐えるような"堪え"。