My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「なんで…」
「わかるよ。君のその形(ナリ)は、ブックマン一族として活動している時のものだ。これでも何度かブックマンのそういう場面に遭遇したことはあるからねぇ」
ティエドールは教団で元帥として身を置いて長い。
ラビの知らないブックマンの一面も、知っているのかもしれない。
「それにこのタイミングでならね、それしか考えられない」
「…師匠、このことは…」
「大丈夫だよ、マーくん。誰かに話したりなんてしないから」
軽く肩を竦めて、手にしていたグラスをコトリと机に置く。
「ラビは雪ちゃんのことで君に話しがあったんだよ、ユーくん」
そうして眼鏡の奥の優しい目は、静かに神田へと向けられた。
「……」
しかし返ってきた反応は"無"。
沈黙を作り表情一つ変えない神田の心境は、人間観察の得意なラビでもよくわからないものだった。
それでも伝えなければ。
その為に来たのだから、とラビは重々しくも口を開いた。
「…雪が…コムイに言ってたんさ。ノアのことを全部話すから、ユウを連れて来て欲しいって」
ぴくりと、神田の指先が一瞬震える。
「ユウに一目会わせてくれたら、どんな処遇も受け入れるって。…そう頼んでたんさ。コムイに頭下げて」
「……なんでそれをお前が知ってんだ」
「…オレもその場にいたから……ブックマンとして」
「本当は、すぐ神田に伝えるつもりだったんだ。時間はかかってしまったが…きっと室長もそのつもりだった」
ラビの言葉をフォローするように、マリが説明を付け足す。
しかし神田の反応は些か薄いものだった。
「なんだよ、その曖昧な言葉。"だった"だとか"きっと"だとか」
「あー…少し、今厄介なことになっちまってて。その要求は一度保留されたっていうか…。でも雪が唯一見せてきた意思だから、ちゃんとユウに伝えねぇとって。そう、思ってさ」
「……」
へら、といつもの砕けた笑みを、力無く浮かべる。
そんなラビにもう神田は噛み付くことはなかったが、返す言葉もなく。何を思ったのか、再びソファへと腰を下ろした。