My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「な、なんさこれ…動けね…っ」
「っ…!」
「男同士、拳でコミュニケーションも悪くはないけど。此処は私の部屋だからね。暴れるのはやめてもらいたいかなぁ」
必死に藻掻こうともビクともしない。
そんな二人に、ちびちびとグラスに入ったテキーラを口にしながら、のんびりと声をかけてくる。
それはただ一人、ソファに座ったまま傍観していたティエドールだった。
片手にはテキーラのグラス、もう片手には十字架を模した鮮やかな彫刻刀が握られていた。
蒼白く光り輝いているのは、発動している印。
それはティエドールの装備型イノセンス"楽園ノ彫刻(メーカー・オブ・エデン)"である。
「あんまり暴れると、私が痛い目に合わせるよ?」
酒で酔った赤い顔のまま。しかし眼鏡の奥の優しい垂れ目が、一瞬冷えた光を宿す。
普段は温和で滅多に怒ることのないティエドールだが、時として冷静で冷酷な判断も持ち合わせている。
そんな彼の底冷えするような一瞬の殺気に当てられ、神田とラビは思わず口を噤んだ。
「それに今問題視するところはそこじゃないだろう? 主軸から話がズレたらいけないよ」
大人しく身を固まらせた二人に、瞬く間にいつもの空気に戻ると、呆気なくティエドールは発動していたイノセンスを解いた。
すっと空気に溶けるように薄れ消えゆく太い複数の蔓。
二人を止める為にイノセンスを発動させたらしく、本気で痛い目に合わせる気はないらしい。
「ラビ。君が言いたいことはわかってる」
「へ? なん──」
「雪ちゃんのことだろう」
あまりにもあっさりと見破れた渦中の人物名に、ラビは息を呑んだ。
それはラビだけでなく、隣に立っていた神田もまた。動揺は見せなかったものの、微かにその身が揺れる。
そんな些細な変化を、ティエドールの目はしかと捉えていた。