My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「この蝶々、どっから舞い込んできたのかな…ロードと同じ所から?」
見たことのない蝶々だが、恐らく外の森からやって来たのだろう。
しかし此処は地下の独房。
どうやって此処まで入り込んだのか。
(…もしかして抜け道があるの?)
ふとそんな疑問が浮かぶ。
だとしたら、もしかすると自分も脱することのできる道があるのかもしれない。
(って、何考えてるの)
しかしその浅はかな思いはすぐに自身で否定した。
例え抜け道があったとしても、蝶々が通れるくらいのもので人間は無理だろう。
それ以前にこんな枷と鎖で繋がれた状態では、逃げることなど儘ならない。
(……逃げる?)
ふと疑問を抱く。
此処は黒の教団。
幼い頃に入団した雪は、ほぼ此処で育ったようなもの。
なのに何故"逃げ出す"という思考に至るのか。
此処は帰る場所だったはず。
リナリーのように"家"だと思ったことはないけれど、特別な想いを神田に抱いてからは似た気持ちは抱けていたはずなのに。
ひら、と視界に映り込む漆黒の蝶々。
真っ黒に見えた羽根はよく見れば、模様のようなものが入っていた。
まるでトランプのクローバーのような形を模したもの。
見たことのない模様を持つ不思議な蝶。
気付けば考え込んでいた思考は途切れ、惹き寄せられるように手を伸ばしていた。
逃げる素振りは見せずに、逆に伸ばした雪の指先にひらりと留まる。
不可思議な生き物。
「雪~、それには無闇に触れない方がいいよぉ」
「え?…痛ッ」
間延びしたロードの声が忠告してくる。
と同時に、指先に鋭い痛みが走った。
「何…っえッ?」
驚き手を寄せれば、ひらりと離れる蝶々。
それが留まっていた指先を凝視すれば、つぷりと赤い真珠の液体が浮かんでいた。