My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
しゅんと、胸にしがみ付いたまま毛糸の頭を垂らす。
そんな縫いぐるみの姿は、どうにも凹んでいるように見える。
一体どうしたのかと、雪は恐る恐る伺うように顔を寄せた。
間近で見える無機質な二つの目のボタン。
そこがつるりと光沢を発したかと、そう思えば。
「──!」
つるりと光ったものが雫の形をして、ボタンの縁に垂れ下がりぽたりと落ちた。
(…………え。)
思わず目を剥きぎょっとした。
ぽたぽたと、ボタンから零れ落ちてくるもの。
それはどう見たって透明な液体だったから。
(え。ちょ。待って。…え?)
ボタンが目玉代わりなら、それはまるで泣いているかのような姿だった。
待て、と混乱する頭に自身で制止を入れる。
縫いぐるみが泣くのか。
その涙は一体どこから出ているのか。
最近の縫いぐるみはこんな最新機能を兼ね備えているのか。
(というか、)
そもそも何故泣くのか。
「え…っと…ど、どうした、の…?」
「……ごめんねぇ」
ぽたぽたと静かに涙のような雫を溢しながら、縫いぐるみが雪の胸に顔を押し付ける。
「ボクがもっと早く雪を見つけていれば…助け出せたかもしれないのにぃ…」
「何…よく意味わかんないんだけど…」
「痛かったでしょぉ…雪の痛み、ボクも感じたから…いっぱい痛い思いさせてごめんねぇ」
「……」
くすんくすんと、小さな泣き声が暗い独房に響く。
服に染み渡る雫に、少しだけ感じるひやりと冷たい感覚。
これは夢じゃない。
しがみ付く縫いぐるみの涙と震えをリアルに感じながら、雪は何故か胸の奥に熱いものを感じた。
「迎えに来れなくてごめん…ボクが守ってあげるって、言ったのに」
『大丈夫。ボクが雪を守ってあげる。もう一人のおうちに帰らなくていいよ』
何か靄がかかったものが、頭に引っ掛かる。
高い可憐なソプラノの声で、優しくそんな言葉を投げかけられた気がする。
『ボクがちゃーんと、迎えてあげる』
細い両腕を広げて、迎え入れられるように誘われた。
だから帰っておいで、と。