• テキストサイズ

My important place【D.Gray-man】

第43章 羊の詩(うた).



「怪我もだけれど…貴女、ご飯はちゃんと食べてるの? 痩せ細り過ぎよ」

「…喉に、通らなくて…」

「気持ちはわかるけど、しっかり食べないと。心の回復には体の回復も大事なの」

「……」


 心配そうにかけてくる婦長の言葉。
 戦闘組織である教団で忙しい医療班を常にまとめている彼女は、威勢も良ければ男顔負けの負けん気も持つ。
 そして同時に、誰に対しても平等に優しさを向ける器量をも持ち合わせている。
 だからこそノアである雪の姿を前にしても、治療が第一だと躊躇することなく手を伸ばし、こうして身も案じてくれているのだろう。

 しかしそんな婦長の言葉を、雪は心ここに在らずで聞いていた。
 どこか朧気に聞こえる婦長の声。
 耳に入りはするものの、するりと抵抗なく流れていく。


(…何を言っているんだろう…)


 そう、ぼんやりと思った。

 "気持ちはわかる"などと。
 ならば自分の代わりに独房に鎖で繋がれて、身を焼かれて、願いを拒否されてはくれないだろうか。
 そんな浅ましい思いがぼんやりと浮かんで、やがてそんな自分が惨めだと感じた。

 捕えられている。
 体だけでなく、心も。
 ルベリエの言葉がぐるぐると頭の中で回り続けて、離れてくれない。

 適性実験も身体検査も、二度と受けたくないもの。
 またあのイノセンスに拒否される痛みを感じて、好き勝手に体に刃物を入れられ弄られるのは嫌だ。
 思い出しただけで体が震える。

 そうなれば選ぶ道は一つ。
 守りたいものの為に、大切なものの為に。


(…大切なもの…)


 そうだ、大切なもの。
 何よりもかけがえないもの。
 その人に会わせてくれるなら。
 言葉を交わらせてくれるなら、どんな処遇だって受けようと決意した。
 どんなに身を凍らせるような処罰だって、受けて立とうと。

 けれど。


(…願い…通らなかったんだ…)


 それは儚く散ってしまった。

 神田がもし要求を受け入れてくれなかったら。
 そんな最悪の事態も予想はしたが、こんな予想はしていなかった。
 要求を伝えることすら、彼へと届かない。

 それはまるで、切り立った崖に立たされたような絶望感。

/ 2655ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp