My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「……」
まるで蛇に獲物として見定められているような、そんな視線を感じつつ雪は俯き体を強張らせていた。
激しい痛みを伴っているはずなのに、それを通り越しているようなただただ熱い四肢の感覚に、目の前が朦朧とする。
しかし変に意識は冴えていた。
ルベリエが持ちかけた命令がぐるぐると頭を回って離れない。
「異論はありませんよねぇ? 室長」
「…それは…ありません、が…」
コムイの目がそんな雪を捉えた。
命に別状はないと言っても、何をされたのか。
雪の纏うただならぬ雰囲気に、ぐっと拳を握り締める。
「…その取り調べは、今後私の監視の下で行って下さい。勝手に彼女を連れ出すなんてもってのほか。此処は黒の教団。此処での最高責任者は私です。教団で私を無視することは、長官であっても許しません」
はっきりと告げられる命とも言える言葉に、突き刺さる視線。
その両方を受け止めて、ルベリエはやれやれと肩を竦めた。
「…致し方ありませんね。では次回は室長もご同行を、ということで」
カツン、と革靴の底を鳴らして踵を返す。
そうそう、と何かを思い出すように顔だけ振り返り、見上げた先は始終口を噤んでいたヘブラスカ。
「貴女にもまた手を貸して頂きますよ、ヘブラスカ」
「…し…しかし…」
「拒否など認めません。今まで貴女が仲間内にしてきたことに比べれば、なんとも軽いことでしょう?」
「……それ、は…」
「それとも、同族殺しはできても敵に手を出すことは躊躇すると?…笑えない冗談だ」
ずっと薄ら笑いを浮かべていた穏やかなルベリエの声が、不意にその面影を消す。
冷たい目で見上げ、吐き捨てるように呟く。
ヘブラスカは元々ルベリエ家の人間。
イノセンス適性実験で次々と咎落ちを作り出し死に追いやった中には、同じルベリエ家の一族も含まれている。
同胞を同胞の手で死へと追いやった。
そのことを責め立てられれば、彼女の口から否定の言葉など発せるはずもなかった。