My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
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つんとラビの鼻を突いたのは、異臭と言えるものだった。
何かを焼いたような、焦げ付いた嫌な臭い。
「──ッ」
広く薄暗いヘブラスカの広間。
通路の上で見た目の前の光景に、翡翠色の隻眼が見開く。
するすると糸が解けるように、緩み崩れていくヘブラスカの髪束。
放電していた雪の力が治まり、眩い光を放っていたイノセンスの原石も落ち着いた頃合いを見て、その姿を確認すべく解放した。
「なん、という…ことだ…」
ヘブラスカ自身も想定していなかったのだろう、零れた声は緊張で震えていた。
自身の手足となる触手のようなそれの中から姿を現したのは、ぐったりと横たわり動かない雪の姿。
その褐色の肌は無残に焼け爛れ、赤黒く染まっていたからだ。
「雪…ッ!」
真っ先に動いたのはラビだった。
弾けるように駆け寄り、躊躇なく褐色の肌に手を伸ばす。
上半身を抱き起こせば、触れた手に痛みが走ったのか。焼かれた頬が引き攣り、苦痛の顔で雪の目が朧気に開いた。
金色の、ノアと同じ色を宿した瞳。
「なんでこんな…ッ」
しかし今のラビには瞳の色など関係なかった。
抱いた体の無残さ以上に、気にかかることなどあろうか。
「…ラ、ビ…」
「雪…っ雪、大丈夫さ…ッ? 待ってろ、今すぐ医務室に連れてってやっから…!」
「なりません」
急いで雪の体を抱き上げようとしたラビを止めたのは、冷たく迷いのない声。
耳を疑った。
「何言って…ッ」
「彼女の正体は教団内でも極秘のもの。公の場に、そんな姿で連れて行けるはずもないでしょう。──マダラオ」
「それをこちらへ」
淡々と雪を見下ろし持論を突き付けるルベリエに、ラビの顔が歪む。
寄越せと言わんばかりに歩み寄るマダラオに、ぐっと拳を握った。