My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
ティムキャンピーの口のように、ぎざぎざとした形で縫われている口元。
つぶらな二つのボタンの目。
ぴょこんぴょこんと跳ねている癖のある黒髪に、赤いリボンを首に付けたスカート姿。
手足はまぁるく指などなく、素人でも作れそうな簡単な縫いぐるみの形をしていた。
ドール人形のような少女が好む可愛らしい玩具、と言うより少し独特な愛嬌のある変わった縫いぐるみ、という方がしっくりくる。
「誰かの落とし物かしら」
「教団に子供はいないぞ、ミランダ」
つい最近、最年少エクソシストとしてティモシーが教団に入団したが、彼はこんな縫いぐるみを可愛がるような性格ではないだろう。
「でも…もしかしたらリナリーちゃんのものかもしれないし。街の子が迷い込んで落としていったのかもしれないわ」
「…成程な」
その可能性は無きにしも非ず。
ふむ、と頷くマリに、いそいそとミランダが顔を綻ばせて手を伸ばす。
「よかったら私が預かっておくわ。リナリーちゃんにも聞いてみるから」
「ああ、なら任せていいか?」
「ええ」
立派な成人女性ではあるが、不思議とリナリーよりミランダの方が縫いぐるみを抱く姿は似合うかもしれない。
そんな想像をしてつい口元を緩ませながら、マリは手にしていた縫いぐるみをミランダに手渡した。
「あ、ここ少し解れちゃってる。手直ししてあげた方がいいかしら」
「……程々にな」
うきうきと楽しそうに縫いぐるみを抱いて言うミランダに、彼女の手先はそんなに器用ではなかったはずとマリは苦笑混じりに声をかけた。
リナリーに見せる前に、縫いぐるみがボロボロにならなければいいが。
そうして二人は再び教団内へと戻っていった。
ひら、と。
後を追うようにして舞い込んだ、漆黒の蝶には気付かずに。